薬局をフィールドワークの場に現場視点での研究成果を発信

「パスカル薬局」滋賀県草津市/横井正之氏

今後目指すべき道筋と次世代の薬剤師像の探求へ

横井氏は数々の研究実績によって関西や中部の薬系大学から非常勤講師に招かれ、次世代の薬剤師育成に力を注ぐほか、医薬品情報専門薬剤師のキャリアを通じて地域の薬局による学会での研究発表・論文投稿を支援するゼミも主宰しています。

「例えば在宅医療でも簡易懸濁が広がりつつありますが、処方後は個人の所有物となるため、現場での簡易懸濁、残薬の一包化なども厳密に言えば薬機法の範疇外。簡易懸濁については、薬局の薬剤師による品質保証が確立されるべきと考え、薬物動態的な裏付けを持ってチェックするための研究に着手しました。徐放製剤とそうでないものの違いや粉砕の製剤均一性はどうかとか、データや専門の知見に基づいた上で『だからこうしましょう』と自信を持って提案できるだけの薬剤師を薬局で育てたいと思っています」。

薬剤師の育成に絡めて横井氏は、かかりつけ薬剤師の展開に期待を寄せます。「患者さんからサインを貰うためだけの動きでは本末転倒です。もし、敷地内薬局ができて患者さんが離れていくなら、もともとその薬局は本当のかかりつけ薬局ではないということ。その患者さんは病院を選んでいるのであって、その近くにある利便性の高い自分の薬局に通っていただけということになります。しかし、かかりつけに同意を得るということを真面目に進めれば、今までに無かった患者さんのニーズを測ることができます。どうすれば真のかかりつけ薬剤師として選んでくれる患者さんを増やせるのか、逆にそのような患者さんが少ない薬剤師は何が原因なのか、データを収集することで今後の道筋を照らす新たな評価軸が得られるかも知れません」。

薬剤師は明確な患者からの評価の指標を持っていなかったため、「『こんなに頑張っているのに』というジレンマを抱えていたのかも知れません」とも横井氏は語ります。「対物から対人へという流れのなか、こうして対人業務を評価するためのエビデンスが蓄積されることにより、行政に対しても他職種にも『我々は患者さんから支持されている』と胸を張って主張できるようになってくれば、薬剤師の仕事はいっそう遣り甲斐のあるものになると信じています」。

2018年の春からはゼミを発展させる形でAI・ICT活用研究なども想定したシンクタンクを立ち上げました。「薬剤師会活動が一段落したことで、以前から興味があったAIのシステム開発に比重を移しつつあります」。AI活用は医療でも急速に進展しており、診断すら置き換わりつつある状況に現場では警戒感も寄せられていますが、横井氏は「AIといっても何でもできるわけではありません」と解説します。

「確かに記憶型の情報に対してはコンピュータが得意なため、医薬品情報に基づく定型的な業務はAIに取って代わられる可能性が高いですが、どのようなデータを与えて、どのような場面で動かすかということで、AIの使い方は全く変わってきます。その辺りを突き詰めていくと、本当の意味での薬剤師の役割が整理できるのではないかとも私は考えています」。次世代に目指すべき薬剤師像をめぐる横井氏の研究は引き続き注目を集めることになりそうです。

(取材実施:2018年5月)
編集:薬局新聞社