薬局をフィールドワークの場に現場視点での研究成果を発信

「パスカル薬局」滋賀県草津市/横井正之氏

「意識的に職能を見せる」姿勢でアウトカム評価の時代に挑む

ジェネリック医薬品の使用促進や地域医療対応において、横井氏は滋賀県薬剤師会理事と地元地区薬剤師会代表を務め、地域包括ケアシステムを見据えた薬局機能の環境整備と啓発にも尽力しました。「やはり個人薬局が面分業でやれることには限界があり、組織的な働きかけが必要と感じて10年ほど薬剤師会活動に集中しました。現在は後進の若い世代に託しましたが、かかりつけ薬局普及事業で実施した講演会活動や、地域FMラジオ番組の出演を通じ薬局・薬剤師の職能や取り組みをアピールすることで、一定の成果や課題抽出ができたと思っています」。

横井氏が推進した地域住民に対する薬剤師講演会では、回数を重ねることで講演時間の半分くらいが質疑応答に終始したそうです。「『こんな薬・健康食品を飲んでいるのですけど』といったように、添付文書程度の知識で答えられるような質問や相談がほとんど。身近な健康相談のニーズを実感する反面、薬局の薬剤師に聞けることを知らない人が多いことを痛感しました」と、薬局が必ずしも健康に関する悩みごとの受け皿になれていない実態を危惧します。

「ジェネリック医薬品の提案でも、説明が難しいからと簡単に済ませたり、充分な根拠を示さず安易にAG(オーソライズド・ジェネリック)を勧めているようでは、専門職として信頼が得られないのは当然です。むしろ難しい話を如何にわかりやすく伝えるかという技術を磨き、意識的に職能を見せることが大切と感じます。同じように患者の話を聞くことが重要と言われますが、当然ながら会話自体が薬剤師の仕事ではなく、嚥下の状態に応じて飲みやすい剤形に変更する、相互作用のリスクや服用状況による問題点をみつけ、それらを回避する処方提案を行うといった成果に結びつけてこそ、初めて業務として意味のあるコミュニケーションとなります。もしかすると薬剤師の多くが自らの職能を十分に理解していないため、今一つ社会で薬剤師の役割が認知されないのではないでしょうか」。

薬剤師が自らの職能を社会に認知させる必要性を強く感じる背景として横井氏は、厚労省・患者のための薬局ビジョンに示される『対物業務から対人業務への転換』をあげます。「薬剤料の減少効果を示した研究論文は規制改革会議で医薬分業のメリットとして取り上げられましたが、それは制度による効果であって、薬剤師の役割となるとまた別の話です。調剤主体の対物業務は正しく機械的に行えば良いのに対し、人を中心に据える対人業務は薬物治療の成果につながらなくてはならず、薬局薬剤師の評価は、アウトカム評価が求められる時代に入ると覚悟しなければなりません」。

そうしたことから、薬剤師の日々の業務・取り組みの成果を発信する重要性は増しています。「薬剤師の介入による残薬の動向調査やスポーツファーマシストの働き、薬局に寄せられる相談内容の分析など、論文も50本を超えてある程度の活動の幅ができており、薬局・薬剤師の機能や役割を少しでも認知させることができたことは福音と考えています」と、横井氏は研究活動の手応えを語ります。