薬局をフィールドワークの場に現場視点での研究成果を発信

「パスカル薬局」滋賀県草津市/横井正之氏

琵琶湖を臨むJR草津駅前の商店街でパスカル薬局を経営する横井正之氏は、医薬分業による薬剤費削減効果を立証した研究論文を世界で初めてカナダの学術誌『グローバルジャーナルオブヘルスサイエンス』(2014年・2018年)で発表し、一躍注目を集めました。研究者としても活躍する開局薬剤師です。薬局業務の傍ら、薬剤師会や医療情報関連の学会発表を中心として精力的に現場視点での研究活動に取組んでおり、これまで手掛けた論文は50本あまりになります。

「カナダの学術誌に論文が掲載された研究では、厚生労働省の調剤MEDIASなどのビッグデータを分析することで、医薬分業が進むほどに総薬剤費が減少するほか、院外処方箋1枚あたりの処方薬剤数が減ったり、いわゆる新薬シフトが抑えられる傾向も確認できました。細かな因果関係の解明にはさらに分析が必要ですが、少なくとも医薬分業のメリットに対する現場の実感がデータ上で裏付けられたと考えています」。

横井氏は卒後しばらく化学メーカーに勤務し、エンジニアとして医薬品や医療機器・ソフトウエアの開発などに携わっていました。その後、赴任先のヨーロッパでの理想的な医薬分業と薬局のあり方に感銘を受け、2002年に意を決して薬局経営者へと転身しました。この経歴からも、活動の源にある薬剤師の職能やプロ意識に対する強いこだわりが窺えます。

なかでも力を入れているのがジェネリック医薬品への対応です。ヨーロッパの薬局を手本に、あえて面分業環境で船出した開局段階から廃棄ロス覚悟で豊富な備蓄体制を整え、各種データや文献をもとに、先発薬とのコスト比較表をはじめ患者から理解を得るための説明資料を独自に作成。薬剤師である妻の裕子さんと二人三脚で地道に提案を図ることで、次第にジェネリック医薬品を目当てに遠方からも患者を集めるほどの支持を獲得し、厚労省の薬剤管理官からの視察を受けるなど、地域を牽引する実績を積み重ねています。

「メーカー時代の知人には『なぜ薬局なのか』と不思議がられましたが、ジェネリック医薬品の使用促進機運に薬剤師本来の力を社会に示すチャンスを確信していました。当時の薬剤管理官から『医薬分業で薬剤師が果たしている役割をエビデンスとして示すべき』と言われたことは、その後の活動の原点になっています」と横井氏。今以上に先発薬との同等性の判断や添加物の違いが問題視されていた状況に対し、「逆にそれらを十分に理解し、評価できるのは薬剤学と医療薬学を専門的に学んだ薬剤師」と適正使用や経済効果に関わる研究・分析を進め、関連学会などで発表し続けてきたことは、薬局をフィールドワークの場とした活動が結実したものとなっています。