薬局を基点に地域の関係性へと働きかける新感覚の地域密着経営

「ミコー薬局」福岡県糟屋郡志免町/古髙優子氏

 福岡郊外の空港に近いベッドタウン・志免町の総合福祉施設にある調理実習室では、薬局の薬剤師が白衣姿で食養生の講義や指導に活躍しています。同町内のミコー薬局に勤める古髙優子さんの取組みで、2014年頃から気の合う仲間と健康・養生を考えた食を実践する会を運営。主婦層を中心に隔月ペースで参加者を募り、調理と食事を楽しみながら、食材の栄養や効用、健康的な食生活の知識を伝えています。今では20人ほどの定員に対し、毎回キャンセル待ちが出るほどの人気イベントとなっています。

 口コミなどで集まった参加者の大半は薬局の馴染み客やその知人。食養生の会を切り盛りする調理師や栄養士といった仲間たちも、もとは古髙さんが薬剤師とお客の立場で知り合った人たちで、会は薬局を通じた人間関係が発展したものといえます。「薬局で健康相談や治療のお手伝いをさせて頂いた方が元気になって野菜ソムリエの資格を取られ、『もっとこの人が活躍できる場を作りたい』と思ったのが、会を作ったきっかけです。以前は病気の人が良くなることが喜びでしたが、体調が良くなればその人との関係が切れてしまうというのではなく、最近は、元気になった人をより元気にすることが仕事の中心になってきました」と古髙さんは語ります。

 ミコー薬局は父親の安川文俊氏が40年余り前に開業。漢方と保健薬、健康食品の相談販売を柱に地域の軽医療と保健衛生を支えています。そんな家庭で生まれ育った古髙さんも自然と薬剤師を志し、漢方の国際資格である国際中医師A級資格を取得して15年ほど前に家業を手伝い始めました。

 当初は顧客から圧倒的な信頼を得るベテランの父親に倣い、「漢方の薬選びに命をかけていた」というほど熱心に漢方相談に対応していたものの、結婚・長男の出産によって対応が追い付かず売上が減少。それを機に、温灸機器と岩盤浴効果のある椅子を使ったリラクゼーションや漢方茶を提供するカフェサービスなど、地域住民が気軽に来店してもらえるような試みに着手しました。また、薬局内に授乳スペースやプレイルームを設けて福岡県の子育て支援店に登録。SNSを駆使して同じ悩みを抱える母親のネットワークに働きかけるなど、仕事と家事、長男とその後に生まれた長女の子育てにと奮闘する古髙さん自身の生活と連動した地域密着型経営に踏み出しました。