地域住民や利用者が頼れる健康相談所として

「清水薬局」東京都港区/清水晴子氏

ゆりかごからお墓の入り口までをモットーに

さらに清水薬局では昭和初期から在宅医療に携わっており、このことが病院・診療所の紹介を可能にしている秘訣のひとつになっているようです。清水薬局は「ゆりかごからお墓の入り口まで」をモットーに掲げており、実に親子数代にわたる顧客関係を構築していることもあるそうです。清水さんは先代オーナーがしびんやガーゼなどの衛生材料を患者宅に提供する後ろ姿を見てきており、現在盛んに指摘されている薬局の在宅医療への参画の息吹を肌身で感じてきたと述懐します。在宅医療に参画する関係から、清水さんは介護支援専門員(ケアマネジャー=ケアマネ)の資格も取得しています。ただ、「ケアマネを取得していますが、理想を実現するためです。つまり薬剤師としての職能を最大限活かすためなのです」と付け加えます。

現在は在宅医療推進の影響で、町の薬局の薬剤師も患者さんが退院する際に実施される退院時カンファレンスに参加するケースがありますが、清水さんも薬剤師とケアマネの両方の立場でカンファレンスに参加しています。在宅医療を円滑に実施するために病院の看護師や薬剤師から情報を聞き出すだけでなく、患者とその家族が抱える在宅医療への不安解消にも乗り出しています。

しかしながら、清水さんは在宅医療に取り組むなかで、薬局が置かれている現状に強い危機感を抱いています。以前に遭遇した事例で「退院時カンファレンスで患者さんの家族の方がガーゼなどの購入場所について『どこで買えばいいのでしょうか。病院の売店でしょうか』と真剣に看護師さんに聞いていたのです。薬局は調剤だけでなく、生活に関わる衛生材料の供給を司る場所。医薬分業の進展の功罪というか、調剤に特化しすぎた薬局があまりにも増えたことによる影響かはわかりませんが、この10年くらいで国民の薬局機能に対する認知度は本当に低下したと痛感しています」と話し、古くから地域の患者・生活者とともに歩んできた老舗として忸怩たる思いであることを滲ませます。

地域の薬局として在宅医療に参画すると、看取りという人生の最期に遭遇することもあると言います。「ケアマネの資格を所持していることも影響していると思いますが今年の3月には2人の看取りに立ち会いました。看取りに立ち会うということは、コミュニティの中に家族同然に深く入っていくことです。これもまた地域薬局の役割であると考えています」と説明し、深い関係を構築することで、患者側からはもちろん、他の医療職からの信頼も得られるとの認識にあり、また前段で触れた患者に診療所・病院を紹介できるのは、こうした在宅現場で得られるネットワークによる情報も当然のことながら役に立っていると付け加えます。