“察すること”“判断すること”の積み重ねで地域住民との信頼を育む

「コスモス薬局」神奈川県川崎市/伊藤啓氏

先人達の背中が現在の課題を映し出す

伊藤さんは祖父から両親、叔父叔母まで薬剤師という環境にあり、まさにサラブレッド。本人も「幼少の頃から知らぬ間に自分も薬剤師を目指していました」と振り返り、家族の薬剤師としての背中を見て育ってきたことを語ります。

薬剤師の先人達は、一般用医薬品の販売などを通じて地域の方々と関わってきました。伊藤さんは、「相談に来たお客さんから苦心して情報を集め、それをベースに薬剤師としての判断で薬を提案していたと思います。“情報収集”と“判断”の連続が日常でしたから、薬剤師としてのスキルは現在よりも高かったのではないでしょうか」と言い、処方せん調剤が中心となっている現状の多くの薬剤師に対し“聞きだす力”の低下に危機感を抱いていると言及します。「薬剤師として薬の安全性をチェックするのは当然の義務です。しかし、調剤室の中で薬剤師だけが『大丈夫』と思っていても、患者さんにその心の声は届きませんよね。そこにひと言でも『お薬(の安全性)をチェックしましたので、安心して飲んで下さい』と添えるだけで印象は違うのではないでしょうか」と語ります。

コスモス薬局では、服薬指導の終わり際に必ず『何かご不明な点はございますか』と患者さんに呼びかけています。患者さんからは、もし聞きたいことがあれば『もう少し説明が欲しい』、特に無ければ『大丈夫です』と返ってくると説明し、患者さんからの要望を引き出すことに成功していると言います。「慢性疾患でいつもと同じ薬が出されている患者さんに対しては、毎回同じ説明をする必要はないと思っていますが、少しでも変化が感じ取れた際はひと声かけますね。この判断力こそが薬剤師の職能でないでしょうか」と力説する姿からは、薬剤師としての強いプライドが感じられます。

「繰り返しになりますが、患者さん・お客さんが薬局に入ってきた瞬間から、その方を観察し、薬剤師としての判断を伝え、抱えているものを察しながら思いを汲み取り、ひと言を添える。こうしたコミュニケーションを積み重ねることで、自然と地域から求められる存在になれるのではないでしょうか」と伊藤さんはまとめ、地域の方々が困ったときにまず思い浮かべてもらえる薬局と薬剤師を目指しますと、自身の将来像についても展望しています。その視線の先には確かなビジョンが描かれているようです。

(取材実施:2014年10月)
編集:薬局新聞社