薬剤師、アートとITテクノロジーを活用中―
「地域全体のQOL」を上げる薬局の在りかた

「なごみ薬局」東京都中野区/渡邊 輝氏

 東京都中野区。漫画やアニメをはじめとするサブカルチャーの聖地として知られ、また人気の飲食店や歴史のある建築などがメディアに紹介されることも多い街です。
 賑わいを見せる中野駅近辺から歩みを進めると、落ち着いた住宅街が広がります。のどかな鐘を鳴らす宝泉寺や子供の笑い声が絶えない幼稚園と並んで人々の生活に溶け込む『なごみ薬局』を今回はご紹介します。

「長生きしてもしかたがない」を「長生きしてよかった」に変えたい

 同薬局代表取締役で薬剤師の渡邊輝さんは「こだわり」のひと。薬局づくりではアートとITテクノロジーの活用にこだわります。
 「こだわり」の原動力について、渡邊さんは「誰もが生きていてよかった」と思える生活の実現という目標を掲げます。

 「高齢社会が進展するなか、長生きしてもしかたがないと思われる方もいらっしゃいます。加齢によるADL(Activities of Daily Living)低下は避けられませんが、それでも長生きしてよかったと思える生活を送っていただきたいそのための薬局でありたいです」

 渡邊さんは目標の実現に向け、地域における薬局の在りかたを変えていく必要性を実感しています。
 「アートとITテクノロジーをよいツールとして活用することで、薬剤師の専門性がいっそう発揮されます。薬局が地域における社会的責任を果たし、新しい価値を創造することで『地域全体のQOL(Quality of Life)』が上がることにつながります」

アートで薬局の社会的役割を変える

―心にひびく居心地のいい空間づくり―

 同薬局は予防医療に力を入れ、健康相談に対応しています。一方で治癒が望めないかたや不安定な精神症状のかたなども来局されます。薬局に機能だけでなく、心にひびく情緒的な価値を付加することは「地域のQOLを上げる」ひとつの手段といえるでしょう。

 同薬局中野店はパステル系の柔らかく穏やかな色調を多用し、照明や椅子といったインテリアや内装に北欧デザインを取り入れています。薬局の名前に冠した「なごみ」が象徴するように、同店はアートを取り入れることで「薬を渡す場所」から「希望をもらえる場所」へと成長してきました。

 「ここに来るとほっとすると思っていただける空間を目指しました」と話す渡邊さんは、北欧の図書館なども参考に工夫を重ねてきました。今後も、本人のストレングスを伸ばしたり、残存機能を引き出せる仕組みなど、引き続き地域の課題を解決できる場づくりを進めます。