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正しく知りたい「身体障害者補助犬」

薬剤師トレンドBOX#39

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薬局や病院でも見かけることのある、身体障害者補助犬。医療機関にも補助犬の同伴受け入れ義務がありますが、受け入れを拒否されてしまう事例も後を絶ちません。今回は正しく知っておきたい身体障害者補助犬についてご紹介します。

障害をもつ人をサポートする身体障害者補助犬

身体障害者補助犬(以下、補助犬)は目や耳、手足などが不自由な人をサポートする犬のことで、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種類に分けられます。 さまざまな訓練を受けたのちに、厚生労働大臣指定の法人で認定試験を通過した犬が補助犬になることができると法律で定められています。 2023年4月1日時点の厚生労働省の調査では、盲導犬836頭、介助犬57頭、聴導犬56頭が全国の障害をもつ人のサポートを行っています。

補助犬の種類と見分け方
● 盲導犬

目の見えない、見えにくい人をサポートしています。 障害物を避けたり、立ち止まって曲がり角や段差を教えたりと、安全に歩けるように手助けをしています。 白または黄色のハーネス(胴輪)をつけており、「盲導犬」と表示されています。ユーザーは使用者証を携帯しています。

● 介助犬

手や足に障害をもつ人の日常生活動作をサポートしています。 物を拾って渡したり、指示したものを持ってきたり、衣服の着脱を介助したりします。 胴着などに「介助犬」と表示されており、ユーザーは認定証を携帯しています。

● 聴導犬

耳の聞こえない、聞こえにくい人をサポートしています。 玄関のチャイム音、メールなどの着信音、赤ちゃんの泣き声、車のクラクション音などを聞き分けてユーザーに知らせます。 胴着などに「聴導犬」と表示されており、ユーザーは認定証を携帯しています。

補助犬のユーザーになるには「満18歳以上」であることと「身体障害者手帳を所持している」ことが条件として定められています。 また、犬に愛情をもって接することができ、犬を適切に管理できることも条件としてあげられます。 使用を希望する人からの申請を受けた都道府県知事が、生活状況や社会活動への参加意思などを踏まえて使用者を決定し、ユーザーは自宅に迎え入れる前に一定期間の訓練をともに受けなければなりません。

身体障害者補助犬法で定められた受け入れ義務

補助犬について定められている身体障害者補助犬法は、2002年5月22日に成立し、2002年10月1日に施行された法律です。 良質な補助犬の育成や、障害をもつ人の自立・社会参加の促進が目的で、補助犬育成団体への「良質な補助犬の育成義務」、公共の場や交通機関に対する「補助犬の同伴受け入れ義務」、補助犬を使用するユーザーへの「犬の行動と保健衛生などを管理する義務」の3つが課せられました。

医療機関で働く薬剤師に特に関わってくるのが、「補助犬の同伴受け入れ義務」です。2002年の成立では、補助犬の同伴受け入れ義務について国などの管理する施設や公共交通機関などに限られていましたが、現在では多くの民間施設などにも広がっています。

補助犬同伴の受け入れ義務がある場所
● 公共の施設や公共交通機関

電車・バス・タクシー・フェリー・飛行機など

● 不特定かつ多数の人が利用する民間施設

商業施設・飲食店・ホテル・病院など

● 国や地方団体などの事務所や障害者雇用事業主である民間企業
補助犬同伴を受け入れる努力が必要な場所
● 民間住宅
● 障害者雇用事業主以外の事業主である民間企業

さらに、障害を理由とする差別の解消に関する法律である「障害者差別解消法」でも、障害をもつ人への「不当な差別的取扱いの禁止」や、「合理的配慮の提供」を求めています。

補助犬を同伴していることを理由に、施設への受け入れを拒否することは、差別にあたります。 法律で定められた受け入れ義務を守る、というだけではなく、すべての人が平等に医療を受けられる環境づくりが不可欠です。

医療機関で補助犬を受け入れるために

医療機関では感染管理や衛生管理の観点から、補助犬の受け入れを拒否されてしまうことがあります。 また、不安に思ってしまうスタッフや周囲の患者さんも少なくありません。 しかし、補助犬を同伴するユーザーは、定期的な通院や投薬を必要とする方がほとんどです。 すべての人が安心して医療機関を利用できるようになるために、まずは医療者が補助犬について深く理解することが不可欠です。

補助犬とそのユーザーの理解と対応

補助犬とそのユーザーは、周囲に安心して受け入れられるよう、行動のコントロールや衛生の管理を実施しています。

補助犬の行動や清潔の管理
● 清潔

毎日のブラッシングや定期的なシャンプーの実施、洋服やケープなどの着用により、毛が舞ってしまわないように管理しています。

● 定期的な予防接種や検診

補助犬は定期的な健康診断や検便、血液学的検査を受け、健康管理記録をつけています。

● 排泄

補助犬の体調にあわせて、指示した場所で排泄できるように訓練しています。 バリアフリートイレや屋外のスペースを使用することがありますが、ペットシーツや排泄のためのベルトを使用するので、周囲を汚してしまうことはありません。 食事や飲水の時間、量を管理することにより、排泄の時間なども管理しています。

● 施設の利用時

交通機関では、ユーザーの足元で静かに待機することができます。 また、商業施設や飲食店などでは、テーブルの下や椅子の側などで待機しています。 むやみやたらに吠えることや、周囲を噛んだり舐めたりすることもありません。

ラブラドールレトリバーなどの大型犬のイメージがある補助犬ですが、中型犬や小型犬も活躍しています。 法律で定められたハーネスや表示を着用していますが、補助犬であるかが不明確な場合には、「使用者証や認定証を確認させていただけますか?」とお聞きしても問題はありません。 受け入れに不安がある場合は、その内容をユーザーに伝えて解決策を一緒に考えるようにしましょう。

診察中や服薬指導中などは、ユーザーの足元や側で静かに待機することができますが、他の患者さんやスタッフの動線を塞いでしまうなど、待機するスペースがないこともあるかもしれません。 まずは動線を塞がないようなスペース(一番奥のベッド、壁側の席など)への案内を検討した上で、難しい場合には補助犬の別の待機場所(隣室や事務室など)をユーザーと相談できるとよいでしょう。 補助犬の待機中は食べ物を与えたり、気を引いたりするような行動は避けるように心がけ、温かく見守るようにします。 また、大きな音が出る処置などを実施する場合には、事前にユーザーに説明しておけるとスムーズです。

なお、一般の来訪者なども立ち入ることのない場所や、感染・衛生管理上立ち入りができない場所(手術室や無菌室など)には同伴を制限することができますが、その理由をユーザーにしっかりと説明することが大切です。 また、施設内の全スタッフが、補助犬の立ち入るエリアについての共通認識をもつことも重要です。

補助犬が吠えたり、動線を塞いでしまったりして他の方への迷惑となってしまっている場合には、ユーザーに誠意をもって説明し、改善してもらうようにします。 トラブルが起こってしまった際の相談窓口も各都道府県に設置されていますので、事前に確認しておけるとよいでしょう。

周囲の患者さんへの関わり方

医療機関に来られる人の中には、アレルギーのある方や犬が苦手な方もいます。 補助犬が大人しく待機していたとしても、同じ空間に一緒にいるだけで辛い気持ちになってしまうような方もいます。 どちらかを優先するという考え方ではなく、どちらの気持ちも尊重できるような関わり方ができるとよいでしょう。

補助犬ユーザーが来局した際のお声かけ例
● 周囲の患者さんへお声かけ

「補助犬を同伴されている方がいらっしゃるのですが、ご案内してもよろしいでしょうか」

● アレルギーのある方や、犬が苦手な方へのお声かけ

「離れたお席をご案内しますので、安心してご利用ください」
「少し距離を取るために、あちらの席にご移動いただいてもよろしいでしょうか」

● 補助犬ユーザーへのお声かけ

「アレルギーがある(犬が苦手な)方がいらっしゃるので、少し席を離してご案内します」
「アレルギーがある(犬が苦手な)方がいらっしゃるので、少し距離を取るためにあちらの席にご移動いただいてもよろしいでしょうか」

厚生労働省では、身体障害者補助犬法や補助犬の理解促進のため「ほじょ犬マーク」やリーフレットの作成を行っています。 ときにはそのような資材も使用してみると、周囲の患者さんの理解も深まるかもしれません。

障害の有無にかかわらず、
すべての人が安心して過ごせる社会のために

補助犬はユーザーにとって、かけがえのないパートナーです。 補助犬の同伴というと、どうしても「犬」を受け入れることに気持ちが向いてしまいがちですが、補助犬の同伴を拒否することは、補助犬ユーザー自身や障害をもつ人自身を拒否することと同じ意味をもちます。 障害の有無や補助犬の同伴によって、社会参加の機会が失われてしまうことがあってはなりません。 すべての人が安心して過ごせる社会のために、まずは補助犬ユーザーが来局したときの対応について職場で話し合ってみてはいかがでしょうか。

(2023年9月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー

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