TOPICS

切れ目ない医療における薬局の役割

薬剤師トレンドBOX#28

topics

在宅医療の拡充が進む中、令和2年度診療(調剤)報酬改定では、がん患者さんに対する薬局での薬学的管理に新たな評価が加わりました。
これに伴い、医療機関と薬局での情報共有のあり方も大きく変わろうとしています。
今回は、がん患者さんを対象としたトレーシングレポートをご紹介します。

薬剤師から処方医に伝えるトレーシングレポート

トレーシングレポート(服薬情報提供書)とは、保険薬局で患者さんから聞き取った副作用やアドヒアランスに関する情報を処方医にフィードバックするためのツールです。「緊急性は低いものの、処方医に伝える必要がある」と判断された情報提供内容が対象であり、緊急性が高い内容については、疑義照会を実施します。

記載項目

厚生労働省はトレーシングレポートのひな型として、「患者の服薬状況等に係る情報提供書」公開しています。病院によっては独自のフォーマットを指定しています。

患者の服薬状況等に係る情報提供書
  • 患者情報
  • 市販薬を含めた併用薬の有無
  • 処方薬剤の服薬状況及びそれに対する指導に関する情報
  • 患者さんの訴え(アレルギー、副作用と思われる症状等)に関する情報
  • 症状等に関する家族、介護者等からの情報
  • 薬剤師からみた情報提供の必要性
  • その他、薬剤保管状況等の特記すべき事項

活用事例

事例① 使用状況の確認

XELOX療法が開始となったAさん

治療開始時には医療機関にて手足症候群等の副作用とその対策について説明を行い、予防として、保湿剤の処方があることを確認。その後、Aさんは保湿剤を手にはしっかりと使用していましたが、足の裏への保湿剤の使用を怠っており、グレード1の手足症候群が認められていました。
薬局は、Aさんへ足の裏にも忘れず使用するよう指導を行い、トレーシングレポートを用いて処方医にフィードバックしました。その後、薬局が2クール目に副作用の確認を行ったときには、処方された保湿剤が足の裏にもしっかりと使用できていると確認され、QOLの向上に繋がりました。

XELOX XEL(カペシタビン(Capecitabine))とOX(オキサリプラチン(Oxaliplatin))を組み合わせたレジメン

事例② 減薬

実は下痢に悩まされていたBさん

もともと便秘に悩まされていたBさんは、定期処方で酸化マグネシウムとセンノシドを処方されていました。ある時、薬局から外来化学療法を受けているBさんへ抗がん剤投与後の副作用確認を行い、今は下痢に悩まされていることが判明。これについて薬剤師からトレーシングレポートにて処方医に、酸化マグネシウムとセンノシドの定期処方をセンノシドの屯用のみにする変更提案を含め報告。
医療機関では把握できていなかった副作用のフィードバックと、減薬の提案によりBさんの下痢は軽減。

トレーシングレポートの活用による算定-服薬情報等提供料-

トレーシングレポートを活用した医療機関への情報提供は、調剤報酬上「服薬情報等提供料」として算定することができます。服薬情報等提供料は2種類あります。

服薬情報等提供料1は、処方医からの求めがあった場合に行うのに対し、服薬情報等提供料2は、薬剤師が服薬指導を通じて医師への情報提供が必要であると判断した場合や、患者さんや家族からの求めがあった場合に行います。事例①・②では、服薬情報等提供料2の算定をすることができます。

がん患者さん向けのトレーシングレポート

トレーシングレポートは、がん患者さんの情報を処方医に伝える際にも大いに活用されています。抗がん剤専用のトレーシングレポートを作成している医療機関もあります。
がん患者さん向けのトレーシングレポートでは、以下の点の評価を踏まえ作成することがその後の患者さんのQOLや治療に大きな影響を与えます。

  • スケジュール・休薬期間、投与量変更など患者さんの理解は十分であるか
  • 副作用がどの程度発現しているか(Grade評価など)
  • 支持療法は適切に使用できているか
  • 経口の抗がん剤を服用している場合は服用状況

レジメンの種類によっては、来院頻度が1か月程度の間隔となるものもあり、その期間の副作用モニタリングがより重要となります。

がん患者さん向けのトレーシングレポートの活用による算定-特定管理指導加算2 ―

薬局が患者さんのレジメンを把握した上で、必要な服薬指導を行い、次回の診療時までの患者さんの状況を確認し、その結果を医療機関に情報提供した場合に、100点が月1回を限度に算定することができます。

対象の患者さんは連携充実加算を届け出ている医療機関で抗悪性腫瘍剤を注射された患者さんであって、当該薬局で抗悪性腫瘍剤や制吐剤等の支持療法に係る薬剤の調剤を受ける患者さんに限定されます。

算定要件
  • レジメン(治療内容)等を確認し、必要な薬学的管理及び指導を行うこと
  • 電話等により、抗悪性腫瘍剤及び、制吐剤等の支持療法に係る薬剤に関し、服用状況や副作用の有無等を患者さんに確認すること
  • ②の確認結果を踏まえ、当該医療機関に必要な情報を文書により提供すること

外来化学療法を受けている患者さんの体調、副作用の把握は、医療機関だけでは難しいものとなります。トレーシングレポートを上手く活用し、副作用、用法・用量、残薬などの必要な情報の確認を薬局から医療機関へフィードバックすることで安心して患者さんが治療に専念できることが期待できます。
これらの問題に対しどのように薬局が介入し、切れ目ない医療を提供できるかが今後の大きな課題となってくるでしょう。

(2021年10月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー

トップページ