TOPICS

2020年夏スタート 薬剤師の新たな役割

―プライマリケアにおいて押さえておくべき法改正―

薬剤師トレンドBOX#22

topics

プライマリケアにおける薬剤師の活躍が期待される中、業務において関連性が高くなりつつある食品衛生法等の一部が改正され、順次施行されはじめました。
令和2年6月より施行された「健康被害情報の届出」における義務化を中心に改正法のポイントをご紹介し、現場に起きる変化を展望します。

令和2年6月より新たに報告義務が生じた「4つの成分」

改正食品衛生法の施行により、令和2年6月以降、4種類の「指定成分」を含む食品により健康被害が生じた際の届出義務が生じました。指定成分とは、食品衛生において「特別の注意が必要」として、薬事・食品衛生審議会に対する意見聴取の上、厚生労働大臣が定めた成分等を指します。

指定成分等を含む食品は、すぐに健康へ影響が生じることはないものの、使用方法や摂取方法によって影響が生じる可能性が否定できないものと食品衛生法で位置づけられています。
実際、プエラリア・ミリフィカでは、若い女性の生理不順や不正出血が多く報告され、コレウス・フォルスコリーでは、用量相関での下痢の発生が高まることが報告されています。

コレウス・フォルスコリー
コレウス・フォルスコリー
表 届出が義務化された4種類の指定成分
成分名 生理活性が強いと考えられる物質 予想される健康被害 期待されている使用目的
プエラリア・ミリフィカ デオキシミロエストロール、ミロエストロール 月経不順、不正出血 ダイエット、豊胸、更年期障害
ブラックコホシュ マグノフロリン、レチクリン、ノルコクラウリン 肝炎、肝機能障害 PMS、更年期障害
コレウス・フォルスコリー フォルスコリン 軟便、下痢 ダイエット
ドオウレン ケリドニン、サンギナリン、ベルベリン 肝炎、肝機能障害 欧米で消化不良、がん予防、デトックス

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000481107.pdf

新たな報告義務の目的と概要

食品に含まれるアルカロイドやホルモンといった成分は、使用法によって人体に有害な作用を生じさせることがあります。製造管理が適切でなく含有量が均一でないこと、摂取目安量が科学的根拠に基づいていないことなど理由は様々ですが、過去には指定成分が原因となる健康被害が実際に生じました。今回の報告制度は、こうした事例を未然に防ぐことが目的です。

届出義務は6月1日より猶予なく発生しており、対象は食品事業者です。
消費者から健康被害について連絡を受けた場合、期日は程度により多少異なるものの、軽微な内容を含めすべて所轄の保健所を通じて都道府県知事等に報告することが義務となっています。

薬剤師に対しては努力義務が新設されました。指定成分を含有する食品を摂取した人からの健康被害報告を受けた場合、所轄の保健所への報告等必要な協力を行うよう努めることとされています。

改正食品衛生法第8条 (新設)
第3項

医師、歯科医師、薬剤師その他の関係者は、指定成分等の摂取によるものと疑われる人の健康に係る被害の把握に努めるとともに、都道府県知事等が、食品衛生上の危害の発生を防止するため指定成分等の摂取によるものと疑われる人の健康に係る被害に関する調査を行う場合において、当該調査に関し必要な協力を要請されたときは、当該要請に応じ、当該被害に関する情報の提供その他必要な協力をするよう努めなければならない。

新制度における健康被害報告の流れ
新制度における健康被害報告の流れ
消費者庁食品表示企画課:「食品表示基準の一部改正について」より引用・改変

改正の全体像と薬剤師の役割

今回の法改正は、食をとりまく国際化などの環境変化に対応し、安全で安心な生活を確保するためのもので、食中毒対策の強化や、事業者による衛生管理の向上、食品による健康被害情報などの把握・対応の強化など、その内容は広範にわたります。

表 食品衛生法等の一部を改正する法律の概要

平成30年6月13日公布

広域的な食中毒事案への対策強化
広域的な食中毒事案の発生や拡大防止等のため連携や協力を強化するとともに、広域連携協議会を設置・活用
HACCP(ハサップ)*に沿った衛生管理の制度化
* HACCP事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握し、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるため特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法
特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
健康被害を未然に防止する見地から、特別の注意を必要とする成分等を含む食品について健康被害情報の届出を求める
食品用器具・容器包装における衛生規制
食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみ使用可能とするポジティブリスト制度の導入等
営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設
実態に応じて見直しを実施、現行の営業許可業種以外の事業者の届出制を創設
食品リコール情報の報告制度の創設
営業者が自主回収を行う場合に、自治体へ報告する仕組みの構築
その他
乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化、自治体等の食品輸出関係事務に係る規定の創設等

出典:https://www.caa.go.jp/notice/assets/food_labeling_cms101_200604_1.pdf

地域における公衆衛生を司る薬剤師として、これら法改正の概要を把握しておくことは将来の業務において有益となる可能性があります。
健康被害から患者さんを守るため、今後のプライマリケアにおいては食品から医薬品までシームレスに扱う職種として、例えばビタミンひとつとっても、医薬品、OTC、栄養機能食品といった選択肢から患者さんに何をすすめるのか判断するため、日頃から配合成分や量などの特徴を理解しておくことがより重要となることが予想されます。

サプリメント

(2020年9月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー

トップページ