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薬局薬剤師が町の観光大使として地域振興を牽引!

災害復興支援を伴った新たな社会薬学の実践にも期待

薬剤師トレンドBOX#18

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 現在、全国的にも珍しい薬局薬剤師の観光大使が北海道で活躍していることをご存知でしょうか。「本来は芸能人やプロスポーツ選手といった有名人が選ばれるものと思っていましたので、知名度のない私が!?と驚きました」と語るのは、2018年9月に北海道厚真町から観光大使を委嘱された中村峰夫氏。中村氏は札幌市内で中村薬局を営む傍ら、得意とする漢方・生薬の知識を活かして代替医療や予防、健康食品に関する研究や学会発表を精力的に行っており、厚真町の名産品である果物・ハスカップが健康にもたらす機能を広めることを目的に白羽の矢が立てられたものです。

 厚真町は100軒ものハスカップ農家が集まる日本有数のハスカップ産地です。中村氏は厚真町の依頼を受け、2017年に国立研究開発法人産業技術総合研究所や北海道薬科大学、名古屋市立大学との共同研究で『厚真産ハスカップの機能性に関する薬学的調査』をまとめています。「ハスカップは漢方において風邪やインフルエンザに用いられる金銀花などと同じスイカズラ科なのです。生薬学的要素について名古屋市立大、薬理的な検証を産総研の研究チームに依頼し、これらをもとにした動物実験での確認を北海道薬科大で実施しました」。

 もともとハスカップは古くから不良長寿の果実と伝えられてきましたが、この中村氏らの研究で厚真産ハスカップが抗肥満化や抗糖化、抗酸化、抗菌といった機能性を持つことを化学的に確認。研究発表と並行して町がブランド化運動に乗り出したことで、有名な料理人が厚真産ハスカップをメニューに取り入れたり、パティシエや野菜ソムリエなどとのコラボ企画、健康食品としての商品化の構想も進むなどの盛り上がりを見せています。

 「臨床現場では糖尿病や高脂血症、メタボなど食生活に関わる疾病が目立っており、薬物治療だけでなく食からのアプローチも必要と感じています。ハスカップも食からの予防医学の入り口になればと思っています」と、中村氏は引き続き研究を続けています。

 薬剤師の職能を通じて厚真産ハスカップの魅力向上に貢献する観光大使の活動において、中村氏は名産品のアピールに留まらない役割に目を向けています。

ハスカップ

 厚真町と言えば北海道胆振地区を襲った度重なる地震で甚大な被害を受けたことでも知られています。ハスカップ農家をはじめ、地域が災害に見舞われる状況で観光大使となった中村氏は、「町役場にある『日本一のハスカップのまち』という垂れ幕を見るたびに身が引き締まる思いです。災害時の医療支援だけでなく、長い道のりの復興プロセスに医療人として携われる機会をいただいたと受け止めています」と語ります。

 「厚真産ハスカップの研究では地域住民の方々の健康にも貢献できますし、ハスカップの機能性を活かした産業化も有望で、実際に設備投資なども含めて地場企業からの相談も増えています。新しい社会薬学を実践できるチャンスであり、行政主導ではなく地域の薬剤師による健康サポート薬局の姿が目指せるとも感じています。志ある方々の参画も是非お願します」と、全国の薬剤師に呼びかける中村氏。薬局の新たな可能性も見据えた薬剤師観光大使の活躍に期待が募ります。

中村峰夫氏

(2019年2月掲載)
編集:薬局新聞社

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