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モバイルファーマシーの稼働で新たな薬局像が浮上!

災害時に留まらない“移動薬局”の可能性とは

薬剤師トレンドBOX#16

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 災害発生時における医療支援対策の1つとしてモバイルファーマシー(MP)の導入が各地で進んでいますが、最近では地域医療向上の観点から“移動薬局”という可能性を探る動きにも発展しつつあります。

 MPとはトラックなどを改造し、調剤を行うための設備を持つ特殊車両のこと。車内に調剤台や医薬品棚、小型分包機、薬品保管庫といった調剤室としての機能を備えるとともに、高機能バッテリーや発電機、衛星通信アンテナ、給水タンク、簡易ベッド・トイレなどを搭載することで、災害被災地のようなライフラインが途絶えた状況でも自立的に調剤作業と医薬品供給が行えるようになっています。

 MPはもともと、東日本大震災時に支援物資や薬剤師ボランティアが充足しながら、地域の薬局自体が被災したことで調剤設備を確保できず、活動が制限されてしまった教訓を踏まえて、2012年に宮城県薬剤師会が独自に開発したものです。その後、大分や和歌山、広島の薬剤師会が順次導入し、実際に熊本地震などの被災地医療支援に活躍したことで脚光を浴び、2018年8月現在までに全国で10車両を超えるまでになりました。

 なかでも県の補助金と企業などからの寄附金で2017年末に導入を果たした岐阜薬科大学は、大学・自治体がMPを所有する初のケースとして、地域の防災機能や災害医療教育の充実に加え、薬局との産学連携療や僻地の医療支援といった方面でのMP活用研究にも意欲を見せています。「MPに対する県からの補助金は『在宅医療推進』名目となっているため、薬局への在宅医療局に関する研修や、医療資源の限られた地域への医療支援での活用を検討していく方針です」と、MPを管轄する実践社会薬学研究室の林秀樹准教授は説明します。

 岐阜薬科大学のMPは被災地の状況に応じて無菌調剤にも対応できるよう、ポータブル型のクリーンベンチを採用するなど、薬局機能としても高度な設備を誇っています。「大学では無菌調剤やフィジカルアセスメントといった在宅医療技術の研修を行っていますが、大学から離れた地方の薬局薬剤師がこのようなら研修に参加することは大変難しいことです。MPを派遣することで、無菌調剤などの高度な設備を持つ基幹薬局がない地域でも、在宅医療に必要な研修の機会を作ることができるようになり、県内の薬局による在宅医療の推進に寄与できると考えています」。

 さらに林准教授は薬局が機動力を持つことにより、「薬剤師だけではなく、薬局そのものが地域医療の現場に踏み出して行けることの意義を模索できれば」との意気込みのもと、大学への寄付講座を通じてMP導入を後押ししたウエルシア薬局らと連携し、現場の薬局との共同研究を計画しています。

 薬剤師法第22条の施行規則では『薬剤師は特別の事情がある場合を除き、原則として薬局以外の場所で販売・授与の目的で調剤してはならない』とあり、薬局以外での調剤は災害時、あるいは患者の状態が居宅などで急変した場合などといった緊急の場合に限定されているため、現時点ではMPで平時の業務として調剤を行うことはできません。この点に関して林准教授は、「大学が具体的なMP活用研究に乗り出すことにより、新しい薬局のあり方を考える流れができれます」と言い、共同研究では将来的な法整備も視野に僻地や過疎地でのMP活用の実証実験も構想しています。

 寄付講座で特任教授を務めるウエルシア薬局在宅推進部の小原道子部長は、「例えば病院に行かなければならないものの、遠方で面倒だからと受診を滞らせたり、移動手段がないといったような人の生活圏にMPが出向くことで、医療の質やQOLの向上、重症化予防などにつなげることができるのではないかと思います。そうしたエビデンスを形にできる大学と、地域住民というエンドユーザーを数多く抱える薬局が連携することで非常に有意義な研究を行える手応えを感じます」と期待を寄せます。

 薬局の在宅医療参画に伴い、処方内容に疑問が生じた場合や残薬の状況などに応じ、医師に照会した上で現場において調整することが可能となっています。全国的な高齢化や過疎・限界集落の問題が増大するなか、既に特区での検証が始まっている遠隔服薬指導といった新たな手法とともに、今後MPが許認可上の薬局として展開されることは充分に考えられるところ。それほど遠くない将来、移動薬局という形態が地域医療を支える薬剤師のフィールドに加わる日が来るかも知れません。

(2018年8月掲載)
編集:薬局新聞社

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