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調剤ミス防止に“魅惑の微笑”!?

調剤室に適度な緊張感及ぼす「モナリザ効果」に注目

薬剤師トレンドBOX#13

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 モナリザと言えば世界中で親しまれる名画として余りにも有名ですが、その魅力である“魅惑の微笑”が持つ特性に着目し、なんと調剤ミス防止に応用するというユニークな研究が2017年秋の日本薬剤師会学術大会で発表されて話題を集めました。いわゆる『どこから見ても目が合う』ような印象が業務に良い緊張感を与えるのではないかと考え、調剤室にモナリザを掲示したところ一定の調剤ミス防止効果が得られたというから興味深いところです。「自分が着るシャツの色で患者さんとのコミュニケーションが変わることに気付いたのが発端で、視覚の印象が人の行動に及ぼす影響を業務にも応用できないかと様々な可能性を検討しています」と、発表者であるウエルシア薬局勤務薬剤師の萩原博氏。今回取組んだ研究内容は、調剤室内の薬剤師に良く見える位置にモナリザを掲示し、調剤での薬の取り間違い件数の変化を調査したもので、掲示前後における約3000回のピッキング比較において掲示時の正答率が1.14%有意に高まるとの効果が確認されました。

 この有意差について萩原氏は、カイ二乗検定を通じて誤差ではないことを立証しており、「調剤者がモナリザの視線を感じることで適度な緊張感を保てれば、調剤ミスに多い規格間違いや注意力不足、思い込みによるミスの防止に有効ではないか」との仮説を導いています。また、見る者に与える印象という意味ではモナリザ以上に強烈な日本古来の般若の絵でも試しているのが面白いところで、こちらは掲示前後で明らかな差は生じず、モナリザがもたらす効果を際立たせています。

 モナリザの独特な魅力は、専門的にはスフマートという絵画技法で説明されています。微妙に輪郭をぼかしたり明暗で遠近感をつけることにより、どの方向から見ても視線が合う気がしたり、角度によって表情が異なって見えるような効果を醸し出し、実際その効果は“モナリザ効果”と呼ばれて科学的な検証もなされています。「般若は昔から修行や稽古の場で使われ、人を戒める作用が期待できると思われますが、一般的な平面画なので正面以外では効果が薄く、常に人の視線を感じさせる緊張感ではモナリザ効果の有用性が示された」と萩原氏は考えています。

 他にも萩原氏は備蓄薬の棚札に着目し、規格ごとに色分けしたり表示の字体を変えるといった視覚的な工夫でも調剤の精度向上を進めていますが、モナリザに関しては掲示から1年近く経過しても直後の効果を保っているそうです。「緊張感を維持するために定期的に棚の位置などを変えたりしますが、慣れてくればミスは再び増えます。モナリザの場合、『微笑んでいるのか無表情なのか』といったスフマート技法特有の曖昧さが見る者に慣れを生じさせず、効果を持続させているのではないかと思います」。

 いずれにしても、絵を貼るだけなら手間やコストはほとんどかかりません。調剤室におけるモナリザ効果の応用、一度試してみてはいかがでしょう。

(2017年12月掲載)
編集:薬局新聞社

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