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インバウンドが薬局の国際化を後押し!?

薬剤師業務にも高まる多言語対応

薬剤師トレンドBOX#6

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国内消費の縮小傾向が加速するなかで訪日外国人旅行者、いわゆるインバウンド市場の振興も高齢化の進展に伴う社会構造の変化を象徴する動きとなってきました。官民あげた積極的な招致活動の成果として、2014年には日本を訪れた外国人旅行者が実に1300万人を突破するまでに至っており、薬局・薬剤師の日常的な業務においても何らかの備えを考えるべき状況を迎えています。

例えば“爆買い”とも称される大量なまとめ買いが話題となった中国人観光客を筆頭に、国際的にも評価が高い日本製品に対する外国人の消費意欲に大きな期待と注目が寄せられているのは周知のとおりです。なかでもアジア圏から日本のOTC薬は非常に人気で、2014年秋から免税対象品目に加わったこともあり、ウォールストリートジャーナルが2015年の春節(旧正月)に日本を訪れた中国人観光客の購買行動に関して「中国の主要ソーシャルメディアの分析結果から家電などを抑えて医薬品がトップになった」と伝えているほどです。

こうした状況を踏まえ、昨今OTC薬メーカーやドラッグストアなどでは市場活性化の起爆剤としてインバウンドの取り込みに力を入れているわけですが、“日本土産”とは言ってもそこは情報提供による販売を前提とした医薬品。旅行中に慣れない土地の生活、飲食で体調を崩したりする場合など、現場の薬剤師にとっては外国人に対する相談応需や医療へのトリアージ、処方せん調剤の機会も増していると考えられます。

実際、くすりの適正使用協議会が調剤薬局に勤務する薬剤師408人を対象に実施したアンケート調査(2013年)によると、『月1回以上、外国人患者への対応を経験する薬剤師』は54%にのぼっています。

そもそもバブル景気時での外国人就労者の増加なども経て、地域によって外国籍の住民も普遍化する状況に応じ、かねてから薬局の多言語対応はバリアフリーとともに取組まれていることではあります。

しかしながら、外国人患者への対応について先ほど紹介した調剤薬局勤務薬剤師へのアンケート調査では、日本人患者との比較で『同程度に出来ている』は僅か3%に留まりました。『日本人ほどではないが出来ている』が31%あったものの、『最低限のことしか出来ていない』との感触が58%と、未だ不十分な状況が圧倒的なことも浮き彫りにされています。

この背景として9割の薬剤師が『参考にする英語版医薬品情報がない』と回答するなど、くすりの適正使用協議会では外国人患者への情報提供や薬学的知見に基づく指導ができるための環境整備を課題に指摘しています。

包装や売場表記、バイリンガルスタッフの配置、免税販売といった商品としてのOTC薬販売におけるインバウンド対応の次の段階として、最近では英語や中国語で医薬品の添付文書・説明文書を打ち出したり、服薬指導で想定される問答を音声で支援するシステムやサービスも登場し始めてきました。

東京オリンピック開催を控えて政府では2020年段階の目標値として2000万人を設定しており、今後さらに地域社会で外国人の存在が普遍化するものと見込まれます。インバウンドの進展を1つの契機として、薬局・薬剤師業務の多言語対応・国際化の機運が急速に高まりそうな気配です。