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医薬品ネット販売解禁の“その後”

まだまだネットで薬を積極的に買うとは考えにくい!?

薬剤師トレンドBOX#4

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安倍政権による経済再興の象徴的施策の1つとして掲げられるなど、社会的にも大きな関心を集めることとなった医薬品のネット販売解禁。一定のルールを定めた新しい制度の施行から半年が経過しましたが、訴訟問題にまで発展した激しい議論の末に鳴り物入りでスタートした状況とは裏腹に、今のところは静かな滑り出しにあります。

例えば東京都内における医薬品ネット販売の届出数は250件程度(10月下旬現在)となっています。このなかにはネットモール内での支店など、1店舗で複数の窓口が含まれていることを勘案すると意外に少ない印象を受けます。東京都福祉保健局安全部薬務課によると、やはり「ネットスーパーや総合ショッピングサイトなどが多い」傾向にある模様で、市場の主流であるドラッグストア、一般薬局・薬店の機能を含む本格的な広がりには至っていません。特長的なOTC薬や漢方を主とした販売店組織などは、新制度施行までに会員間で「原則対面販売=ネット販売を行わない」とのコンセンサスを固めており、ドラッグストアにおいても競争激化・単価下落への警戒、さらに安全性担保や信用問題から現時点ではほとんど積極性は見られず、総じて暫く様子見といった状況が続いています。

もっとも、強く解禁を訴えてきたネットモール、eコマース大手などでは、売れ筋の第1類医薬品の育毛剤やアレルギー用薬、またブランド保健薬、店頭で購入しにくい疾患の治療薬を目玉にした特設ページを設けたりしながら、食品や日用品などと並行して“ネットで薬を買う”という習慣への働きかけが積極的に繰り広げられています。今後こうした方面でのリピーターを中心に、ネットを活用した日常的な買い物の“ネット上での最寄り買い”の定着にも伴って実績が積み重ねられていくと推測されますが、購入者や生活者の視点に立つと必ずしもそう単純とは限らない雰囲気もうかがえます。

第47回日本薬剤師会学術大会(2014年10月12・13日)で東邦大学薬学部医療薬学教育センターが発表した『一般用医薬品のインターネット販売に関する検討』では、消費者145人に対するネットでのアンケート調査を通じて「消費者がネット上で一般用医薬品を積極的に購入するとは考えにくい」との判断に至っています。

この調査結果ではネットによる医薬品購入経験者は3%(10人)で、購入薬のほとんどが低リスクの3類薬となっており、全体での今後の購入意向は17%と2割を下回りました。また、実際にネットでの医薬品購入調査(1類鎮痛薬)を行った感触として、配送料などで価格が実店舗の価格より割高になるほか、配達までに数日を要することから「(医薬品販売にとってネットが)便宜性が高いとは考えにくい」との実感も背景に寄せられています。

一方、第12回日本セルフメディケーション学会(2014年11月1・2日)で東京薬科大学薬学部一般用医薬品学教室から発表された『一般用医薬品のインターネット等販売に対する消費者意識に関する研究』では、同様に東京都内のスポーツクラブで実施した対面によるアンケート調査の結果(有効回答数170枚)として、医薬品ネット販売を利用したいかどうかを尋ねてみると「利用したい」47.0%、「利用したくない」51.8%と、ほぼ半々という結果が示されています。

利用したい理由は「買い物時間の短縮」61.3%、「情報をゆっくり読める」48.8%などで、利用したくない理由では「薬剤師・登録販売者に相談したい」が44.3%と筆頭にあげられ、次いで「違法業者に対する不安」が37.5%を占めました。また、今後ネット販売に求めるサービスに「薬剤師・登録販売者にいつでも電話で相談できるサービス」が53.3%で最も多く寄せられていることなどを踏まえ、同研究では「一般消費者はネット販売においても丁寧な情報提供と相談対応を求めていることが明らかになった」との考察を加えています。これはある意味で現時点の状況を象徴する実態と言えそうです。

ネット販売における利便性や安全性に関わる細かな課題は、日進月歩のIT環境の進展や今後の法整備に応じて解消されていくと思われますが、そこでは実店舗とネットを問わず、専門家による介在という医薬品販売の本質とのバランスが鍵を握ることは間違いありません。制度そのものの運用が手探りにあるなか、やはりここでも薬剤師が主体的に関与することで医薬品の新たな販路の確立を導く展開が期待されるところです。

「一般用医薬品のインターネット等販売に対する消費者意識の研究」より
東京薬科大学 薬学部 一般用医薬品学教室 名倉広樹、成井浩二、渡辺謹三
第12回日本セルフメディケーション学会(2014)

(2014年12月掲載)
編集:薬局新聞社

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