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少子高齢社会のもう一方の可能性

~身近な子育て支援で地域に切り込む!

薬剤師トレンドBOX#2

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高齢長寿社会に伴って薬局・薬剤師の在宅医療や介護方面での機能発揮が待ったなしの状況を迎えていますが、地域医療や社会構造の変化という意味では、対極にある次世代を担う子ども達のケアも実は隠れた重要なテーマに浮上しています。たびたび取り沙汰される小児科・産婦人科をめぐる医療崩壊や女性の社会進出に伴う子育て支援問題、さらに核家族化の進展といった社会環境を背景として地域に根ざした身近な専門家の必要性は増しています。その専門家の一人として、薬局・薬剤師への期待も高まっていると言えそうです。

薬剤師として小児医療に携わってきた実績や自身の子育て経験を踏まえ、2009年から『NPO法人こどもとくすり』を立ち上げて子どもの健康支援に取組む中村守男氏(福岡・有限会社八幡西調剤薬局マネージャー)にお話を伺いました。

常に患者を知り、背景を学ぼうとする姿勢の重要性

子育て支援のNPO活動を通じて中村氏は、「子どもとその家族の背景を知ることの大切さを痛感しました。また、薬剤師は患者さんの生活に最も近い医療人であるべきだ、という強い自覚が生まれました」と話しています。

薬剤師が関わる子どもの健康支援という服薬コンプライアンスなどが真っ先に思う浮かぶところですが、中村氏がNPO活動で定期的に取組む「こどもの健康づくり講座」では、『子どもがおねしょをするようになったがどうしてか?』『◯◯ワクチンを接種しようと思っているが問題ないか?』『離乳食を始めたがなかなか食べてくれない。これは食物アレルギーと関係があるのか?』といった多岐にわたる質問が寄せられています。言うまでもなく、こうしたことは薬学・調剤の知識だけでは決して答えられません。子どもとその家族を観察し、どのような事にニーズや興味があり、不安を抱えているのか?自分達のような専門家に何を望んでいるのか――活動を通じて中村氏は「小児医療の本だけでは無く、育児本や育児雑誌をはじめ徹底的に勉強した」と言います。

医療や介護を生活の中心に据えられる余地が大きい大人に対し、子どもは子育てや発育状態、生活環境といった多様性が医療と同列に重視されます。加えて核家族化や情報だけが溢れるネット社会で身近な専門家の意見に貪欲な傾向にある現代の親の思いや実態を踏まえ、中村氏は「専門知識のセオリーではなく、子育て環境や生活に応じた細かな指導をしてあげる姿勢で支援することが大事。こうして常に患者を知り、背景を学ぼうとする姿勢の重要性は日頃の薬剤師業務へも確実に活かされています」と解説します。

「最後に出会う医療人」として地域の健康づくりの中核を

そうは言っても広範な専門知識を修得するにも限界があるため、NPO活動には薬剤師だけではなく保育士や歯科医師、栄養士など多方面の専門家、また実際に子育て中の父母もメンバーに加わっています。子どもを中心とした一種のコミュニティとして機能することで多様な子ども・子育ての実態を共有し、全体で効果的な支援活動を導く――チーム医療に置き換えれば理想的な姿となっています。

多様な視点を持った専門家や各種団体が健康づくりという共通の認識を持って取り組むことが重要で、その中心として健康に関する地域の身近な窓口である薬局・薬剤師が果たすべき役割については平成26年1月に厚労省が策定した『薬局の求められる機能とあるべき姿』でも指摘されているところです。

「子どもの健康を心配する親御さんへの対応と同じように、調剤の患者さんも薬をもらうことが目的ではなく、病気を治して健康になりたい、健康に関する不安を取り除きたいという本質を見極めた対応が大切。患者さんが医療機関へ出向いた際、問診、診察、処置などを終えて、投薬のために最後に出会う医療人が薬剤師。その役割として、帰宅直後から次回の受診までの自宅でのケア、日頃の健康づくりの全てを担う期待が寄せられているとの自覚を強めています」

少子化で紙オムツやミルクといった育児用品の取扱いは減少の一途にありますが、あえて今、身近な子どもの健康や子育て支援の機能・情報、ネットワークを備えることで積極的に地域へ切り込んでいく意義は決して小さくなさそうです。

右は中村氏と同じく薬剤師の立場でNPO法人こどもとくすり理事を務める髙丘知秀氏(美野島調剤薬局管理薬剤師)

中村守男(なかむらもりお)

薬剤師として調剤薬局で小児医療に携わりながら、2006年「子どもの薬を考える会」を立ち上げ、それを母体に2009年「NPO法人こどもとくすり」を設立。生活者目線を大事に、医療と健康面からの子育て支援を目的とする『子そだて医療』を推進し、健康づくり講座やワークショップ、講演活動を行う。また、九州大学を中心とする「こども×くすり×デザイン実行委員会」のメンバーとして「こどもおくすり手帳『けんこうキッズ』」を開発。現在、NPO法人こどもとくすりで販売、全国の病院、薬局で取扱われ、子どもの健康づくりに活用できる手帳として、厚労省が2012年設置した「アフターサービス推進室」の活動報告書でも紹介される。有限会社八幡西薬局では局長、管理薬剤師を経て、現在は採用担当マネージャーとして薬剤師のマネジメントを行う。小学生2児の父親。

※NPO法人こどもとくすり
公式ホームページ
http://kodomo-kusuri.org/
公式facebookページ
https://www.facebook.com/kodomokusuri

(2014年7月掲載)
編集:薬局新聞社

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