「処方箋の指示どおり」から「一歩踏み込む」患者さん支援へ

「薬薬連携」という言葉がまだあまり浸透していない2012年頃。大島さんは社内異動で薬師寺調剤薬局に着任しました。数か月後、管理薬剤師に着任。同じ頃、自治医科大学付属病院(以下、同院)薬剤部の発案で進められていた、がんの薬物療法を中心とする門前薬局との薬薬連携を進める取組みのメンバーとして活動することになりました。
病院との連携にあたって、知識や患者さん対応といった面で大島さんには多くの不安がありました。
「それまでも、化学療法を受けていらっしゃる患者さんと接する機会はありましたが、体重・身長すらお伺いせず、深く介入していませんでした。ただ処方箋の指示どおり、薬の飲み方を説明していたように思います」と振り返ります。

悩んだ末、何事もやってみなければと参加を決意した大島さん。薬薬連携の取組みメンバーに加わりました。当初の参加者は、門前の6薬局の薬剤師に加え病院薬剤師2名と臨床腫瘍科の医師1名。多職種・多施設で打ち合わせを重ねる中、薬薬連携に役立つ情報共有シート(トレーシングレポート)を作成するなど、取組みは徐々に形になっていきました。

取組みを加速させたのは2017年頃、病院薬剤師の提案により始まったメンバーによるWEBカンファレンスでした。従来、メンバーの情報交換はメールで行われてきました。連携をいっそう強化する目的で、日程調整が行いやすく、どこからでも参加できる形式として始まったものです。

カンファレンスでは症例や患者さんの状態といった情報共有をもとにディスカッションしたり、服薬指導に関する薬局同士の情報交換などを実施。課題を解決しながらそれぞれの現場が向上する場となっていきました。

こうしたカンファレンスに参加する中、大島さんの副作用対策に関する薬剤使用の理解が大きく深まることになります。
例えば、支持療法に多く用いられるステロイドは、むくみや吐き気などに用いられます。しかしながら、大島さんが抗がん剤治療に携わり始めた当初は、副作用対策の目的かそれ以外の理由からの処方か区別がつきませんでした。

「吐き気」が理由で処方されていた場合、処方箋どおり指導すると来局当日から服用を開始することになります。抗がん剤の副作用対策では、当日の点滴にステロイドが入っているため、服用開始は翌日からとなります。
処方意図がわかるようになるにつれ、患者さん一人ひとりに合わせて大島さんの服薬指導は変わっていきました。

どの薬剤師も、患者さんに「同じ対応」ができる薬局へ

このように、薬薬連携が進む中、大島さんは一つひとつの症例から、踏み込んだ患者さん支援ができる考え方やスキルを身につけてきました。
一方、薬局で来局されるたくさんの患者さんに、毎回大島さんが対応できるわけではありません。
そこで薬局のどの薬剤師も大島さんと同様の対応ができるよう、2020年度はじめから抗がん剤ごとの「まとめ資料」を作成し始めました。

「他の薬剤師に服薬指導で生かしてもらいたかったので、なるべく簡便でわかりやすいものを意識しました。その上で必須項目は副作用についての内容です。副作用に対する支持療法は処方箋を見てもわからないことが多いので、起こりやすい副作用と対処法、抗がん剤の投与間隔をまとめました(大島さん)」

ツールは大島さんが学んだことや経験したことを都度追記しながらアップデート。資料をベースに知識やスキルを身につける後輩薬剤師の業務の様子から、大島さんは薬局の業務全体が日々向上していることを実感しています。

「当初私がやっていたような、処方箋どおりの、飲み方の指導だけでも患者さんは困らないかもしれません。でも処方意図を理解して、プラスアルファの内容やフォローがあった方が、一歩踏み込んだ薬物療法に貢献できると思います(大島さん)」

薬薬連携にいっそう貢献するオリジナルの「グレード評価ツール」

2020年度調剤報酬改定で新設された「特定薬剤管理指導加算2(以下 特管2)」の算定がきっかけともなり、自治医科大学附属病院から薬局へ提供される情報は2020年度、種類・量ともにさま変わりしました。
副作用情報であれば、病院からの情報は「有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版」(略称:CTCAE 5.0 - JCOG)に基づいて作成されています。グレーディングの記載内容などを薬局内で共通理解し、具体的に、患者さんの日常生活に落とし込んでヒアリングとアセスメントを実施するため、薬師寺調剤薬局ではオリジナルの「グレード評価ツール」を作成しました。

「特管2」算定要件における病院から提供される情報にはレジメンもあげられます。
「レジメンが提供されることは大きく、支持療法にも介入できる患者さんが増えました」と大島さんは患者さんのアウトカムへいっそう介入できることに対する手ごたえを感じています。
一方で「特管2」を算定していない、つまりレジメンが提供されない患者さんも少なくありません。
「すべての情報が一律に提供されるわけではなく、自身のレジメンを覚えていない患者さんも多くいらっしゃいます。そのような状況で把握できないことが出た際の対応が今後の改善していくことだと考えています(大島さん)」

「患者さん本位」とは?―ポリファーマシーと薬局レイアウトを例に―

大島さんが今、特に着目しているのはポリファーマシー対策。
薬局では、3段階を想定した薬剤師のステップアップに取り組んでいます。

表 ポリファーマシーに向けた3段階
1. 報告書の作成

「まずは書いてみよう」と呼びかけ、作成された報告書を大島さんがチェック

→ 報告書作成の敷居を下げ、定式を身につける

2. ポリファーマシーにかかる研修

ポリファーマシー症例について薬局内で研修を実施

→ 実際業務を見据え、大島さんの経験も共有

3. 減薬提案の報告書の作成

医師へ提案するための報告書を作成し、大島さんが添削。

→ 医師の考え方に沿った報告書

ステップアップの過程で意識しているのは、病院への報告・提案に役立つ実践的な知識やテクニックです。
例えば報告書の作成においては、文章校正や報告内容の確認にとどめず、概要がひとめでわかる構成とわかりやすい提案背景を指導しています。
「ただ症例を記載するのではなく、エビデンスやガイドラインを併記するといったポイントを伝えています。医師が確認しやすく、処方変更の提案理由と根拠が一目でわかる報告書作成をこころがけています」

大島さんが取り組むポリファーマシーの目的は、「患者さん本位の薬物療法への貢献」。
「もちろん、副作用などの観点から中止すべきときは伝えます。ただ、むやみな減薬は必要ないと思っています。薬学的な観点で不要としても、患者さんにとっては安心につながる処方もあります。患者さんとよく話し合って、その方にとって一番よい方法を一緒にお探しするようにしています(大島さん)」
研修を通して、こうした大島さんの想いも薬局内に広がりつつあります。

新人薬剤師の頃から一歩ずつ歩み続け、患者さんに寄り添うに至った大島さんの薬剤師業務。
入社当初は淡々と調剤をこなし、処方箋に記載されている「薬」と向き合っていたという大島さんは、「患者さん」と向き合いはじめてから、ある特性が磨かれました。大島さんは、ひとの名前と顔を覚えることが本来得意でした。

患者さんの顔をみると自然に名前と処方が結びつくため、来局時に薬歴などを見るまえに気づくことが多くありました。服薬指導時に指名されるなど、次第に患者さんからの信頼に結び付くこととなりました。

「大切にしているのは患者さん一人ひとりに合った寄り添いです。毎日電話で会話するかかりつけの患者さんもいらっしゃいますし、多くの情報を伝えて欲しい方も、伝えると不安を増加させてしまう場合もあります。その患者さんにとっての“正解”は必ずあるはずなので、話を聞きながら患者さんの性格に合わせた指導を行うようにしています。」

現在、大島さんは薬局のレイアウト変更を進めています。
現在は調剤室で薬歴を記載・入力していますが、待合室に入力スペースを設置することで、“常に薬剤師が患者さんの近くに”という想いを叶えるものです。
大島さんの、より患者さんに寄り添った薬剤師業務を目指す思いがまた一つ叶う日も近いでしょう。

(取材実施:2021年1月)
編集:学校法人 医学アカデミー