漢方薬膳講座の“口コミ”から芽吹いて
「相談対応力」が地域に咲かせる健康の花

「フローラ薬局」茨城県水戸市/篠原久仁子氏

 農産業が盛んな茨城県。平成28年の農業総産出額の合計は4,900億円を超え、北海道に次ぎ全国2位を誇ります。県庁所在地である水戸市もまた、27の川が流れる「水に恵まれた土地」といわれています。

 今回紹介する水戸市のフローラ薬局は豊かな土壌というこの地域性を活用し、ハーブ園が併設されています。栽培している薬草を使い「漢方薬膳講座」を毎月実施。季節に合わせてテーマを考案し講座を主催するのは、同薬局代表取締役を務める薬剤師の篠原久仁子さんです。

 東京で薬学を学び、卒業後も都内で勤めていた篠原さんが茨城の地へ移り住んだのは、ご主人の故郷で薬局を新規開設するためでした。

 開局当初は地域に認知してもらうため、「土日も休まず年中無休」と看板を掲げ毎日オープンしましたが来局者はまばらでした。

 「畑の中に薬局がぽつんとある感じで周りに医療機関もなく、院内調剤が主流の時代でもあり、薬局の中でただ待つのは限界がありました」と篠原さんは振り返ります。

 「この地域の薬剤師だからこそ、できることを」と考えた篠原さんは、水戸の豊かな土地の恵みに目を向けました。ハーブ園を造り、薬草の活用法を伝える漢方薬膳講座を始めることに。

 周辺の家を一軒ずつ回りチラシを配布し、自宅のリビングを会場にする地道なスタートでしたが、口コミで評判が広がり、参加者は30名を超えるようになりました。
 1年経つ頃には薬局に講座参加者がさまざまな相談のために来局されるように。以来24年、毎月講座は続いています。

漢方薬膳講座で、食物の漢方的性質と効能を説明する篠原さん(中央)

漢方薬膳が体現するセルフメディケーション

 日本で伝わっている「医食同源」は、語源を中国の「薬食同源」に遡ります。「薬」と「食べ物」の根源は同じという意味で、漢方薬膳は薬食同源の思想をもとに健康維持・増進、未病の防止などを目的として気候や体質に合わせて作られます。

 「気候や体質に合った食事とは“地産地消”だと思っています」と話す篠原さんの漢方薬膳講座では、ハーブ園の薬草をはじめできる限り茨城県産の食材を使います。
 篠原さんが担当して約10年になるNHK文化センターの漢方薬膳講座も同様で、参加者にとっては、普段からなじみのある食材が健康に対して果たす役割を知る貴重な機会になっています。

 豊かな土地の恵みに囲まれて生活している地域の皆さんに、その食材をもっと活用してほしいという篠原さんの想いから、講座では漢方薬膳にとどまらず西太后のエピソードなど、たくさんの情報を伝えています。

 「食事に気を使わない方も多いですが、日々食べるものが将来の健康につながります。毎日の食事が健康を支える“薬”にもなる、これは究極のセルフメディケーションではないでしょうか(篠原さん)」

NHK文化センターの漢方薬膳講座 ホスピタリティにあふれたひと時の中、参加者には篠原さん手作りのハーブリーフがプレゼント
ハーブティーとともに参加者になじみ深い食材を活用した季節の料理が振る舞われる

ハーブ園のルーツとなっている篠原さんの「想い」

 篠原さんにとって薬学は困っている人を助ける身近な存在。「薬学生の当時、今ならカリキュラムにある臨床薬学教育がなかったこともあり、授業内容が“患者さんから遠い”と感じていました。ですが漢方をはじめとする薬草の講義はとても楽しかったです。枯れたススキにしか見えないレモングラスの香りに初めて出会った時の感激は忘れられません」と篠原さんは話します。

 学生時代から学び、業務で活用するなかで、篠原さんはいつしか「薬草を自分で育て、手に取って香りを感じていただける“体験できる学び”を地域に伝えたい」という想いを抱くようになりました。ハーブ園と薬膳漢方講座はその想いがルーツになっています。