薬剤師とお客との出逢いを創る“太陽系薬剤師”

「田原町薬局」東京都台東区/小嶋夕希子氏

観光客が世界中から訪れる浅草寺にほど近く、商いを営む人々もまだまだ多いことから“下町気質”が色濃く残る東京都台東区。地下鉄の田原町駅から徒歩1分の商店街に構える田原町薬局は、進みはじめた医薬分業への対応を目的として、地元薬剤師会の有志によって30年以上前に浅草周辺で最初に開局された薬局です。長い間にわたって地域医療のインフラとして機能しながら、近年は経営者不足などにより閉局を余儀なくされたこともありました。そんな田原町薬局を生まれ変わらせたのは、現在の経営者である小嶋夕希子さんです。

自身について「あまり普通ではないと思います(笑)」と話す小嶋さんは、立ちはだかる苦難へ常に前向きに立ち向かう人生を歩んできました。幼い頃に父親を亡くし、さらに学生だった19歳の時に母親が重い病になり、学校を辞めて働きながら2年にわたる看病・看取りを経験し、『医療の道に進んでほしい』という母親の望みを叶えるべく、薬剤師を目指しました。復学後は株のトレーダーなど、学生起業家として自ら学費を稼ぎながら薬学を学んだそうで、母親の闘病時に感じたことが後の活動の原点になっていると言います。「頭痛に苦しむ母へ何度も同じ薬が処方され “何のための薬なのか”などの説明もあまりなかったことで不安が募り、お医者さんへ詰め寄ってしまったこともありました。闘病の中で薬を調剤してくれていたはずの薬剤師の記憶は全くなかったんです」。

自身が困っていた時に“薬剤師との出逢い”がなかったことに疑問を感じ、「目の前のお客さまや患者を救うことはむしろ当たり前で、助けが及んでいない人がいることを忘れてはいけない」と、1人の薬剤師として以上に社会を変える活動がしたいと考えるようになります。

そうして、薬剤師1年目の秋ごろから開業を目指しはじめ、「薬局業界を良くしたいと思っている若手がもっと前に出ていくべき」と強く感じ、まずは勤務薬剤師として経験を積むなかで、薬剤師でありながら様々な活動へアクティブに取組む人々との出会いもあり、「薬剤師はやっぱり良い仕事だ」と再確認しました。そして2016年、薬学部卒業から2年目で“お客さまと薬剤師との出逢いを創る”というミッションを掲げた会社・FUNmacyを起業。地域の人々の“心のよりどころ”となる薬局を理想に、知人の誘いを受けて田原町薬局を継承しました。