老舗の歴史に甘んじないきめ細かな地域密着経営

「平岡回生堂薬局 富田店」三重県四日市市/平岡伸五氏

 愛知と三重を結ぶ近鉄名古屋線・富田駅前の商店街に店を構える平岡回生堂薬局富田店では、店内でお客さんの歓声や笑い声が飛び交う光景が日常的に繰り広げられています。毎月実施している謝恩企画によるもので、馴染み客を中心に毎月1500枚のDM・チラシで告知し、サイコロや輪投げ、宝くじといった抽選ゲーム、ドリンク剤の重さ当てクイズなど、趣向を凝らしたイベントを行うことで意識的に親しみやすい薬局をアピールしています。さらに健康維持や予防に向けた体験会を催したり、年に1~2度は公民館を借り切って地域の健康講演会も開いています。

 「地域の方々と一緒に楽しんだり、盛り上がることができる企画を常に考えています。『ありがとうございました』『お大事に』だけで終わるのではなく、ちょっとした工夫で薬局に対する親近感は全く変わってきますし、難しい相談や服薬指導の後にもゲームをしてもらうことで一気に和んで頂けます」そう説明する経営者の平岡伸五氏。イベント自体は販促的な意味合いを持つものですが、「単に売上を得る作業的な取組みならドラッグストアなどと同じ。薬局の実力はもちろんのこと、常に地域で存在を意識され、何かあれば足を運んでもらうための働きかけは欠かせません」と、きめ細かなコミュニケーションで地域との距離を縮める姿勢を重視しています。

 平岡回生堂薬局は大正14年に名古屋で創業後、戦災による移転を経て昭和20年から同地域の保健衛生を担い、富田店を本店として現在までに2つの支店を設けて老舗の屋号を守っています。現在三代目の店主を務める平岡氏が語る“薬局の実力”という意味で、OTC薬と調剤、化粧品から健康・自然食品、衛生用品までを総合的にカバー。「最近は調剤業務が全体の5割を超え、手が取られてきたのが悩ましいところ」というものの、先代から取組む薬局製剤でファンを育むほか、漢方による体質改善の提案で特に皮膚病相談に力を入れてきました。遠方からも悩みが寄せられるなど、相談薬局として高い専門性がうかがえます。

 さらに徒歩圏での買い物先が限られているお年寄りのためにパンや菓子、日用品も取扱っており、長年にわたり地域の生活を支える役割も果たしています。平岡氏は「今や車で10分も走れば主要なドラッグストアや調剤薬局が出揃い、郊外には大型ショッピングセンターもあります。そうしたなかで高齢社会に期待される健康サポート薬局として物販を含む幅広い機能を発揮しようにも、個性が認められなければ老舗であっても埋もれてしまいます」と、地域での存在感・個性が鍵を握る健康サポート薬局の時代を見据えた経営努力の必要性を強調します。